白き花
4.
侍女はエティエンヌに会い、ブロドウェンの言葉を伝えた。
指環と飾り帯を手渡すと、彼は丁重な礼を述べた。
そして、指環を自分の指に挿し、帯を腰に巻き付けると、きつく結んだ。
しかし、彼はそれ以上何も言わなかった。
侍女も何も尋ねなかった。
彼は返礼の品を差し出したが、侍女は受け取らずに帰った。
侍女はブロドウェンに、エティエンヌの言葉を伝えた。
ブロドウェンは急かして尋ねた。
「隠さずに教えてください。あの方のご様子はどうでしたか?
私を好ましく思ってくださるようでしたか?」
侍女は答えた。
「あの騎士さまは嗜みを心得た方かと存じます。
ご自分のお気持ちを抑えることをご存じなのでしょう。
姫さまのお言葉をお伝えし、贈り物を差し上げると、あの方は指環を挿して、帯をきつく身体に締められました。
それ以上は何も仰せになりませんでした。」
王女は落胆した。
「あの方は、あれらを恋の贈り物とは思し召しにならなかったのでしょう。
ああ、つまらぬことをしてしまった。」
侍女は答えた。
「お聞きください。
あの方が姫さまに何もお望みでないとしたら、贈り物を身に帯びることはしなかったでしょう。」
王女は嘆息した。
「人を介して、恋を告げるなど、もどかしいことをしたものです。
今度、直接お話できるならば、自分で伝えることにしよう。
あなたを恋しく想って、苦しんでいますと告げることにしよう。
でも、あの方はこれからもご滞在になるのだろうか?」
侍女は王女を慰めた。
「騎士さまは、王さまに忠節をもって仕えるとお誓いになったではありませんか。
王さまも、あの方を惜しんでお引き留めになりました。
必ずや、機会が巡って参るでしょう。」
エティエンヌは、王女の願い通り、王国に留まることになった。
ブロドウェンは喜んだが、彼が彼女を目にして以来、苦しんでいることなど、思いも寄らなかった。
彼にはもはや、彼女のことを想うことしか、楽しみを感じることがなかった。
しかし、そうすればするほど、自分を不幸だと思った。
何故なら、彼には故国を去る時に、誓った妻がいたからである。
“決して、お前以外の者は愛さない。裏切らない。”
その誓いが彼を縛っていた。
それでも、ブロドウェンに恋しないでいることなどできなかった。
会いもせず、話もせず、抱擁もせず、口づけもせずにいることは、耐えられない。
だが、妻に対して誠実であるためには、王に忠実に側近く仕えるためには、王女と秘密の恋などしてはならない。
エティエンヌは何日も苦しんだ。
意を決して、王の居城に出かけた。
王に会見を求めて、幸運ならば、そこでブロドウェンを目にすることができるだろう。
王は家臣と将棋をさしているところで、彼の来訪を知ると、喜んで招き入れた。
そこにはブロドウェンもいた。
王は愛想よく彼を迎えると、傍らに座らせ、娘に話しかけた。
「ブロドウェン。ノルマンディーから来られたこの騎士殿とお近づきになるといい。
まさに一騎当千のすばらしい男だ。どんな騎士もこの者には遠く敵わないであろう。
丁重におもてなしをいたせよ。」
ブロドウェンは頬を染めて、エティエンヌを人々から離れたところへ誘い、共に座った。
二人ともに、恋心が燃え上っていた。
彼には話すことが見つからなかった。先日は気安く話ができたというのに。
ただ、彼女からの贈り物の礼を言った。
「あれほどの見事な品を見るのは初めてでした。素晴らしい贈り物をありがとうございます。」
それ以上、彼は話すことができなかった。
彼女は贈り物を喜んでくれたのだと、嬉しく思った。
「受け取っていだたけて、とても嬉しいことです。
指環と飾り帯をお贈りしたのは、あなたにこの身を奉げたいと思ったからです。
私はあなたに恋をしているばかりか、夫にしたいと思っているのです。
そうできなければ、私は一生夫を持ちません。
ああ、どうか…お気持ちをお聞かせください。」
騎士は答えた。
「お慕いくださって、嬉しく存じます。あなたに恋を告げられて、喜ばぬはずがありません。
あなたをあだやおろそかに扱いたくはありません。
私はこの国の戦が終わりますまで、王さまにお仕えいたします。
王さまは、私の誓約をお受けになられました。
戦が果てれば、故郷のノルマンディーに帰るつもりですが、王女さまがそれをお許しになってから、この国を出立いたしましょう。」
王女は騎士に答えた。
「愛しい方。お礼を申し上げます。
あなたは、思慮深く賢い方です。私をどうなさるか、その時までにお決めください。
あなたを信じてお待ちいたします。」
二人はその日はもう、それ以上の語らいはしなかった。
約束があれば、それで十分であった。
その後もしばしば会っては、二人は語り合った。恋の楽しみ、喜びは大きかった。
心の華やぎは武勇にも及んだ。
王に戦を仕掛ける敵に、勇ましく挑み、多くを虜とし、王国の領土も回復させた。
武勲と知恵、雅やかな振舞が、ますます王に愛され、重んじられるようになった。
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