白き花
2.
そのころのブリテン島には何人もの王や侯が立ち、互いに覇を競っていた。
その中に、大きな権力を持つ王があった。
その年老いた王には嫡男はおらず、王女が一人だけあった。名をブロドウェンといった。
王は、敵対する他の王侯に王女を嫁がせることはしないでいた。結婚によって王国を手に入れられないことがわかると、敵対者たちは、遠慮なく王国を攻め
た。
長い戦になっていた。
軍勢に戦いを挑もうと、打って出る勇敢な者は、王の許には、もはやいなかった。
エティエンヌはその話を聞くと、これこそ自分の求めていた場所、自分の武勇のほどを示す絶好の機会だと思った。
彼は王に書状を遣わした。
“私は故郷のノルマンディーを離れ、王をお援けするべく、推参つかまつりました。
必ずや、あなたさまの敵を退散させることでしょう。
お気持ちをお聞かせ願います。
もしお召しいただけないならば、他の勲を求めるべく、他所へ向かいますので、御領を通行することをお許しください。“
王はエティエンヌの書状を好ましく思い、家臣に連れて来るように言った。
彼は礼を尽くして迎えられ、王に伺候することになった。
王は彼に宿舎を用意し、身の回りのさまざまな品を整えてやった。彼の部下にも手厚いもてなしがなされた。
彼は必要なだけを取り、部下にも厚かましい要求をさせることを許さなかった。
王の許の滞在が数日すると、街に噂が流れた。敵国の軍勢が迫っているとか。あちこちの領地を攻めていたものが、いよいよ王城の街を攻撃するだろうという
ことだった。
王の騎士たちは、既に傷ついたり、囚われたりしたものも多く、軍馬と武具のある騎士は数えるほどであった。
エティエンヌは部下と共に、鎧に身を固めると、早速に街から打って出た。
そこへ王の騎士たちも駆けつけた。
「お供つかまつろう。音に聞こえたノルマンディーのエティエンヌ殿に倣って、我々も大いに働きましょう。」
土地に詳しい騎士たちがいるのは心強いことだと、快く承知した。
「卿らに申し上げることがあります。
身を滅ぼすのを怖れて、危地を避けるようでは、武勇の誉は得られませぬ。
私と共に打って出たからには、誓ってあなた方を危険に陥らせることはいたしません。
どうか、私に従われ、同じような働きをなされますように。
共に王に忠誠を尽くしましょう。」
騎士たちはエティエンヌの誓いを受け入れた。
彼らは勇敢に戦い、大きな武勲を立てた。
王は臣下の身を案じていた。エティエンヌが裏切り、彼らを見捨てて、敵の軍勢から逃げるのではないかと不安になっていたのだ。
塔の上から、城門の外に目を凝らしていると、隊伍を組んだ騎士たちがこちらに向かって来るのが見えた。
王は、それがエティエンヌたちであるとは思わなかった。
出陣した時よりも、見るからに大勢だったからである。
守備の兵に迎撃の準備をさせてうかがっていると、使いがやって来た。
使いは彼らの身元を告げ、どのように戦い勝利を手にしたのかを物語した。
敵の将をはじめ、主だった騎士を幾人も捕えて帰って来たのだ。それで、見まごうほどに大勢だったのである。
王は、まるで夢のようだと感嘆し、大いに喜んだ。
王はエティエンヌを惜しみ、彼の部下ともども召し抱え、王国の守りを任せることにした。
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