1.

 

 やがて、草原を壮麗な日没が染めて行くだろう。

 アデレードは、茜色に変わり始めた陽の光の中で、トゥーリが馬を駆る姿を望んだ。馬套棹を左手に握って、仔馬を追っている。

 首を捕えられた仔馬がどうっと倒れた。砂煙が上がった。彼の乗馬が急停止した。彼は素早く下馬し、仔馬を確かめた。駆け寄ってきた牧童と何か話して、笑っているようだ。

(かっこいい…)

 彼女は、彼が馬に乗る姿を見るのが好きだった。一番、彼らしい。宮廷の姫君は、広間で盛装して取り澄ましている彼の様子を素敵だと言った。確かに美しい立ち姿だったが、彼女は豪快に馬を乗りこなす姿の方がずっと魅力的だと思った。

 彼が彼女のいるのに気づいた。軽く手を挙げ、騎乗すると駆け寄った。

「来たのか。いつからそこにいた?」

「少し前から。」

 彼は目を細めて陽の高さを確かめた。

「帰ろうか。」

「その前に…」

 彼女が手巾と水袋を見せた。

「気が利くな。」

 彼は微笑んで、下馬した。そして、彼女が下馬するのに腕を貸した。

 彼女を抱きあげた時、彼は

「ん…?」

と、何かに気づいたような声を挙げたが、何も言うことはなかった。

彼は、黙って馬套棹を地面に突き立てた。

(何?)

 彼は彼女の差し出した手巾で、顔を拭っている。黒い髪が汗に濡れて、頬に一筋張りついていた。彼はそれを振り払った。

(あ…汗。私、汗がにおったのかしら…?)

 彼女は恥ずかしくなり、頬を染めた。

 彼は座るように促すと、自分も隣に座った。馬の脚を隠すほど茂った草が、視界を遮った。

彼は革袋に口をつけ、美味しそうに水を飲んでいる。

 反らされた首にも汗が光っていた。

 

「何?」

 彼の声に彼女は我に返った。見とれていたのだ。

 彼は距離を詰め、彼女の肩を抱いた。

「さっきから…顔が赤いぞ。」

 にやりと笑い、口づけした。

 啄ばむと、深く唇が合わさった。するりと舌が入って、彼女の歯列をなぞり、舌を探って絡め取った。

「ふぅ…」

 彼女が息をつくと、また性急な口づけに塞がれた。

 そのまま、彼は草の上に彼女を倒した。そして、彼女の脚を割り、身を入れた。

 

 唇、耳許、首筋に口づけが落ちた。彼の吐息がくすぐるだけで、身体の奥からぞくぞくとしたものが湧きあがってくる。

「あ…あっ…」

 すると、彼は半身を起こし、彼女の襟を開いた。彼女は驚き

「ちょっと…こんなところで、嫌。」

と胸元を掻き合わせようとした。

場所は元より、小さすぎる乳房を陽の許で明らかに見られるのが嫌だったのだ。

彼は手首をとり、露わになった乳房に口づけした。

 そして、固くなり始めた頂を舐め上げると、くすっと笑った。

「嫌?本当に嫌なのか?…こんなに固く立たせて…」

 血の気が上がった。

「だって…誰かが…」

 彼は胸の頂を舌で弾き、吸い上げた。

「あ…ん…」

 彼は彼女の手首を握っていた左手を離すと、もう片方のふくらみに手を載せた。

 親指が敏感になった先端をゆっくりと撫で、弄り始めた。

「あ、あ、だめ…ううん…」

 舌と指に翻弄された。深奥が熱くなり、蜜が溢れ出すのを感じた。

「ん…アナトゥール…」

 彼女は彼にしがみついた。

(こっちの胸にも口づけしてほしい…)

 察したように、右の胸に唇が寄せられた。

 舌先が艶めかしく動く。

 焚きつけられた快楽に、抗うことを忘れた。

 

 スカートの中に大きな手が滑りこんだ。

 彼女は、さすがに、草原の真っただ中でないだろうと思っていた。驚き、軽く身じろぎしたが、言葉は口づけで封じられた。

 彼の手が内腿を撫で、すぐに中心に伸びて行った。指が難なく敏感な蕾を探り当てる。

 意識しているのか、していないのか、音を立てて胸を舐め、吸い上げる。

 胸のふくらみを撫でた指が、愛撫を強請るように立ち上がった部分に触れた。爪で掻くように弄られると、じんじんと熱くなった。

 胸と中心を一度に刺激され、快楽が波のように押し寄せてきた。

 

 彼は、彼女の下着を一気に下ろした。

 ハッとして見上げると、凶暴なほど欲に燃えた瞳が見下ろしていた。

 彼は彼女を見つめたまま、何も言わず、もどかしげに履いているものを引き下ろした。

 上着の裾を払った時に、腹に付くほどそそり立ったものが見えた。

(あれが…毎晩のように私の中に…)

と思うと、またとろりと蜜が滴った。

 彼は彼女の脚を大きく開き、それを押し込んだ。いつものように、ゆっくりではなく、一気に深奥まで貫いた。とろとろに潤んだ女の部分は、難なく彼の男を呑み込んだ。

「あ…は…っ…」

 湿った音を立てて、抜き差しされる。

 彼の荒い吐息が耳朶をくすぐった。

「はあん…っ…あ、あ…」

 止めようとしても、淫らな声が漏れてしまう。

 

 彼は彼女の右の膝裏に手を掛けた。彼のものが、今まで知らなかった部分を擦った。強い快感が湧きあがった。

「ああ…っ!」

 彼はそこを荒々しく突きあげた。彼女は彼の動くのに合わせて、腰を擦りあげた。

「…お前…」

 彼は眉を寄せ、彼女の胸にかぶりついた。固くしこった先端を、舌でぐりぐり押し、強く吸う。

「だめぇ…」

 彼は激しく腰を打ち付けた。

 はあはあと荒い息使いの間に、低い唸り声が混じった。

(これ以上は…私…無理!)

 爪先にぐっと力が入った。びくびくと身体が震えた。彼女は彼の上着の襟を噛み締めて、声を殺した。

「ん…ん…ふぅん…」

「く…出る…。いく。」

 彼女の中のものが、質量が増したように感じた瞬間、迸る熱いものが深奥に叩きつけられた。

 

 彼は彼女の頭の両脇に腕をついて、身を伏せている。上気したままの肌に、荒い吐息が触れていた。

 大柄な彼の身体に包み込まれ、守られているような安心感があった。彼女は彼を抱き締め、胸元に顔を埋めた。指先が触れた黒い髪の中は、熱く湿っていた。

 二人は身を重ねたまま、覚めやらない悦びの余韻に浸った。

 

 ようやく彼が身を引くと、混じり合った愛の証がじゅるりと流れ出た。彼はそれを見て、照れくさそうに笑った。

「…溢れてきた、いっぱい…」

 彼女は横たわったまま、のろのろと服を合わせた。彼が手巾で、彼女の額を拭い、彼女の額にかかった髪をかきあげた。

「汗…。その…気になった?」

 馬から降ろされた時に気がかりだったことを尋ねると、彼はくぐもった笑い声を挙げた。

「ああ、気になった。…男を誘う匂いだった。」

 彼女は赤くなり、そっぽを向いた。

「お前…」

「え?」

「さっきの…あれ。真っ白になったんだろう?良くて。…もっとか?」

 彼の瞳が艶めかしく光っていた。彼女はぞくりとしたが、慌てて

「誰かが来るんじゃないかって…どきどきしたわ。」

と取り繕った。

 彼はにっと笑った。

「別なことでどきどきしたんだろう?…誰も来ないよ。あれが立っていると、誰も来ない。」

 指さす先には、馬套棹が立っている。

「どうして?」

「その下で、男と女が睦み合っているからさ。暗黙の了解だ。」

「そうだったの…」

 彼は微笑んだ。そして、夕日を眺めると

「帰ろう。…続きは帰ってから。」

と囁いた。

「さっきは我慢できなかった。帰って…お前の好きなこと、たっぷりしてやるよ。それとも…ここでする方が好きになったのか?」

 彼女は目を伏せ、小さく頷いた。

 彼は目を丸くしたが、やがて笑い出し

「でも、もう陽が落ちる。…屋敷でね。」

と言って、彼女を抱き寄せ、軽く口づけた。

 

 屋敷に帰って起こることを想像すると、また身体の奥が甘く疼いてきた。脚の間から、新しい蜜が湧いてくる。膝をぴったりと合わせてみたが、じゅんと流れ出した。

(これでは…馬に乗れない…)

 もじもじと立ち尽くしていると、彼が

「乗らないのか?」

と言った。

「…乗るわ。」

 彼はじっと見つめると、彼女に

「ふうん…」

と含みありげな目を向けた。




  Copyright(C)  2016 緒方しょうこ. All rights reserved.