7.

 リオネルの許に、廷臣が現れた。連れている騎士共々、厳しい面持ちだった。
 廷臣は冷ややかに
「レニエの伯爵、リオネル・ドナシアン。牢を移動する。」
と宣言した。
「何故?」
 リオネルの問いに応えはなかった。乱暴に引き立てられ、薄汚い部屋に押し込められた。
「いったい……どういうことなのだ!」
 廷臣の背中に叫ぶと、ちらりと憐れみの視線を向けたが、彼らはそのまま去った。
 扱いはがらりと変わった。
 よくよく考えてみたが、理由はわからなかった。エレナの処遇も変わったのではないかと気が騒いだ。
 口数がめっきり少なくなった獄吏に、執拗に尋ねてみたが、答えはない。そして、やはり気の毒そうな目で、リオネルを見た。
 不安な心の所為か、リオネルは食が進まなくなった。食べても戻すことが増え、身体のだるさを託つようになった。

 城の奥では、王とごく重い立場の廷臣が協議を続けていた。
 廷臣たちは、リオネルに対する王の処置に異を唱えたかったが、王の示した証拠を見ると皆黙りこんだ。
「レニエは死なねばならん。」
 王が重々しく宣言した。皆頭を垂れた。
 青ざめた母后が
「王さまは、あの美しいひとを殺しておしまいになるのですか? よくよくお考えなさい。サーシャがどのように王家に仕えたか。父の働きに免じて、せめて申し開きの場を息子に与えねばなりません。わたくしは、あの方がそんなことを企んだとは思えないのです。サーシャの息子がね!」
と、抗議したが
「サーシャ、サーシャと……。母上がサーシャを認めているのはわかりました。私も彼は認めております。ですが、サーシャとリオネルは別な人間ですよ。父子であっても、思うことは同じではない。そして、これ!」
 王は卓の上の文箱を指先で叩いた。
「これがあるのです。明白です。」
 母后はうなだれ、唇を噛んだ。廷臣たちは、恐ろしげに文箱を眺めていた。
 ひとりの廷臣が
「それでも……慣例として、レニエさまに尋問なさることは必要ですよ。諸侯の手前もある。」
と小さな声で進言した。すかさず、母后が
「そうですよ! 何かの間違いです。あの方は、きっと身の証を立てるはず。」
と必死に訴えた。
 廷臣たちも同じ気持ちで、王の顔をうかがった。
「形だけに終わるが、そのようにする。取り計らえ。」

 廷臣を引き連れた王と母后が、リオネルの牢の前に現れた。
 リオネルは
「ごきげんよう、皆さま。これはいかがなことかな?」
と言った。
 やつれて、無精ひげを生やし、強い眼差しでひとりひとり睨む姿に、廷臣は怯み、母后は手巾を口に当ててすすり泣きを押し隠した。
 王は涼しい顔で
「リオネル・ドナシアン。申し開きの場を設けた。包み隠さず、申し述べよ。」
と言った。
 リオネルは鼻を鳴らした。
「何を?」
 王が廷臣に促すと、彼は震える声で文箱の中の書状を読み始めた。
 リオネルは驚愕の色を浮かべ、言葉を失った。



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